Published: 2025年9月9日
本日はマスターカルジとマスターゴッホのインタビューのため、決戦に備えて温存していた備蓄を供出します。月曜日から通常の記事のアップになります。よろしくお願いします。
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「終わんねえぞ!終わんねえぞ!どうするんだよ!」
大の大人があらん限りの大声を張り上げて怒鳴り散らしている。普通の人の、普通の生活だったら、こんなシーンには滅多に出くわすことなど無いだろう。だが、僕にとっては毎日、毎週、毎月のことだった。
眼前には、不摂生でどす黒くなった顔を真っ赤に紅潮させ、目を釣り上げて、居並ぶ部下たちを睥睨(へいげい)する上司。
僕は息をひそめ、密かに眼球だけ動かして、左右を見る。ある者は顔面蒼白になって憔悴し、ある者は何も感じないかの様に無表情で、またある者は濁った目をして俯いていた。早くこの時間が終わればいい。誰もがそう思っているのは明らかだった。
バシィィィイッ!
上司が、目の前の机に掌を思い切り叩きつける。
「お前らふざけんな!」
僕らの無反応に激昂したのだ。あたかも発狂者の振る舞いである。
次々に胸くそ悪い罵声が飛ぶ。
今もう金曜日の夜になってしまったが営業数字の進捗が大幅に劣後している、とてもじゃ無いけど俺はこの成績で今週終わりましたと支店長に報告出来ない、そもそも誰のせいでこんな事になったんだ?お前ら全員悪いのは言うまでもないが、個別に数字を見ていくと出来ねえ奴はいつも同じだな、誰々と誰々が悪い、どうなっているんだ、と。
そう言いながら、名指しで辱しめた何某を今度は一人ずつ、胸ぐら掴みに鋭く近づいて行き
「オイどうして出来なかったんだ言ってみろ!今からどうやって挽回するんだ言ってみろ!」
と、責め立てる。さっきからずっとだ。どれぐら時間が経ったんだろうか。僕の角度からは時計が見えなくて、時間の感覚がない。もし首を動かして時計を見ようものなら、それを見咎められたら、上司へ格好の好餌を与える事になる。誰もが時計を見たい時に限って、時計を見ようとする目線は、目立つのだ。
その時、視界の向こう側で、スローモーションの様に椅子が空中を飛んでいるのが見えた。隣のチームのマネージャーだ。こちらと同様、わんわんと怒鳴っている。激怒のあまり、自分の座ってるデスクチェアを頭上に持ち上げて、嗚咽とも咆哮とも分からない奇声とともに投げるのだ。机を叩くなんて目じゃなぐらい、壮絶な破壊の音がフロア中に響き渡る。余りの迫力にかのチームのメンバーたちは、縮み上がる。
更にその奥を見ると、別のチームのマネージャーは、木刀でホワイトボードを叩き、メンバーたちを威嚇している。ホワイトボードはもうホワイトボードとしては用を為さぬほど、ボコボコに形を変えられていた。威嚇のための打楽器なのだ。
上司は、周りのマネージャーたちが奮発して部下を叱咤しているのを見て、
(負けてられない!)
とでも思うのだろうか、机を叩くのではなく、今度は机の金属ラックを蹴り始めた。金属のガン!と言う音とともに恫喝されるのは、本当に陰鬱な気持ちになる。マジで帰りたい。あと何分これやるの?